Pâtisseries Régionales Françaises
フランス地方菓子
Pâquesパック(復活祭)について
Pâques復活祭は、十字架にかけられて死んだイエス・キリストが三日目に復活したことを記念・記憶する、キリスト教において最も重要な日です。それ故、Noëlノエル(クリスマス)やCarnavalカーナヴァル(謝肉祭)など数あるキリスト教のイベントの中でも最も宗教色の強いものでもあります。ですので、このPâquesを説明するには非常に複雑で宗教的な話なってしまいます。ちなみに私はキリスト教徒でも宗教家でもない、ごく普通の仏教徒ですので。ただ、Pâquesに限らず、フランス文化に根ざしたフランス菓子というものは、西欧キリスト教文化とは切っても切れない縁があるのも事実です。宗教という人の「信仰・信条」に関わることなので、その文化圏にいない人間がそれを誤って理解したり、歪曲して広めたりすることは、とても失礼なことだし、その文化に対する冒涜だと思います。なので、それなりに複雑でややこしい説明になってしまいますので、あしからず。。。
Pâquesは「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」に祝われるため、年によって日付が変わる移動祝日となります。キリスト教が優勢な国においてはその翌日の月曜日も休日(フランスはLundi de Pâques)にされていることがあります。
今年(2024年)のPâquesは3月31日です。
今や、復活祭はEaster「イースター」という表現の方が認知度も高く、市民権を得ていますが、フランス語ではPâques「パック」ですし、イタリア語ではPasqua「パスクア」、スペイン語ではPascua「パスクア」となります。フランス菓子屋である我々は「イースター」ではなく「パック」で表現していくべきだと考えます。
英語・ドイツ語・ポーランド語等以外の多くのヨーロッパ諸言語における「復活祭」という言葉は、ギリシア語「Πάσχαパスハ」に由来しており、その言葉も元をたどれば、アラム語の「Paschaパスハ」で、これはユダヤ教の「*過越(すぎこし)の祭り【下記参照】」を表す「Pesachペサハ」というヘブライ語の言葉から来ています。つまり、キリスト教の復活祭が旧約時代のユダヤ教の「過越の祭り」を雛形とした祝い日であることを示しています。
方や、復活祭を表す英語「イースター(Easter)」およびドイツ語「オースタン(Ostern)」はゲルマン神話の春の女神「エオストレ(Eostre)」の名前、あるいはゲルマン人の用いた春の月名「エオストレモナト(Eostremonat)」に由来しているといわれています。これはキリスト教の布教という意味合いも込めて、土着信仰を取り込んだものと思われます、復活祭の語源とは関係ないとろころから派生したものであり、自ずと本来の意味も込められていない名称となってしまいました。
このように、やはり「パック」の表現の方が本来的な意味合いとして適していると思います。
現在では「イースター」の名称が広がり、「イースターエッグ」とその「エッグハント」という行為が一人歩きしている感がありますが、もともとは復活祭を祝うため、特別に飾り付けられたり染められたりした鶏卵(ゆで卵)を食するものでした。復活祭の雛形であるユダヤ教では、ゆで卵はエルサレムの神殿崩壊を象徴する聖なる料理であり、ユダヤ教徒は過ぎ越し祭にはゆで玉子を食さなくてはなりません。
Œuf de Pâques「ウッフ・ド・パック」(英語で言う「イースターエッグ」)の起源を語る物語は数多く存在しますが、1つには、キリストの復活は赤い卵と同様ありえないとある皇帝が言ったためという説。もう一つの根強い説は、マグダラのマリアに起源を持つというものです。これはイースターを祝うとき、赤く染めた卵を贈る習慣があることにつながっていきます。彼女はキリストの昇天の後、ローマに赴き皇帝ティベリウスに会って紅い鶏卵を献上したとされます。彼女はキリストの復活を伝え、主の十字架の死を物語り、ローマ総督ピラトによるキリストの死刑は不法であったと皇帝に訴えたました。卵が象徴するものは、墓と、そこから抜け出すことによって復活する命という意味合いで、赤はキリストの血によって世界が救われることを表しています。また、ユダヤ人の習慣として、貧しい者が祝賀・敬意の気持ちを示す際に鶏卵を贈るということに由来し、この習慣に則ってマグダラのマリアが皇帝に赤い卵を献上してから、復活祭に赤く染められた鶏卵を人に贈るという習慣が始まったとされます。
他には、「イースター・エッグ」の伝統はCarêmeカレーム「*四旬節【下記参照】」の間の節制(断食)が終わることを祝うためという説です。西方教会では、卵は「肉類」と同様に見られ、四旬節の間は食べることを禁じられますが、その間も鶏は卵を産み続けてしまうので、四旬節の終わり、つまりは復活祭に大量の卵を消費するという習慣があったからです。
春を祝うという意味合いが最近の「イースター」の行事の一部になっていますが、これはキリスト教が土着信仰と結びついたものですので、本来的な意味合いとは違ってきます。しかし、前述の通り、この意味合いが広く浸透していることも事実です。この「春」というイメージから、古来より豊壌のシンボルだった「卵」や「ウサギ」をその象徴とする伝統も根強く残っています。このことは、「卵」から結びつけられた「鶏」や、英語圏やドイツでは復活祭の朝に子供たちが隠された卵を探すのですが、これらの卵を隠すのがイースター・バニーという「ウサギ」だったり、フランスやイタリアでは「教会の鐘」が卵を運んでくることになっているなど、復活祭にまつわる様々なシンボルが存在していることにも明示されています。
フランスの菓子屋ではこのPâquesの時期になると、チョコレートで作られたオブジェを店頭に並べて販売しています。大きいものから小さいものまで、最たる主題は「卵」ですが、上述のような「鶏」や「うさぎ」、そして「教会の鐘」などがあります。しかし、最近ではこれら「パック」や「イースター」に関係ないようなテーマのものも多く見られます。それはそれで本来の意味合いをないがしろにしたままイベントの一人歩きみたいで悲しいことですが、それらを贈り合うという習慣が根強く残っているところは流石だなと感じさせます。